課題曲 Ⅲ 僕らのインベンション/宮川彬良
みなさんこんにちは!
トランペットを吹いたり、教えたりしている荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。
「荻原明オフィシャルサイト」にて今年も課題曲トランペットパート解説を開催しております。
解説を始める前にひとつ大切なことをお伝えしますと、この記事は課題曲の解説というよりも、課題曲のトランペットパートに出てくるいくつかの部分をピックアップして、その考え方や解決方法をお伝えする内容がほとんどである、ということです(そしてさらに今回はその傾向が色濃くなっております)。よって、作品を作り上げるための全体像…指揮者が作り上げていく方向性や作品そのものの特徴などについてはあまり言及しません。まあ、そういったことは雑誌で指揮者や作曲家の方が詳しくお話されていたり、(信憑性についてはわかりませんし責任は持てませんが)インターネットでも様々な場所で目に入ると思うのでそちらをご覧ください。
では課題曲Ⅲ「僕らのインベンション」の解説です。
作品について
近年、課題曲Ⅲは委嘱作品で、今回はマツケンサンバの宮川彬良さんの作品ですね。
課題曲のフルスコアにはそれぞれ作曲者からのコメントが書かれておりますが、多分この欄は自由に使って良いんでしょうね(だから昨年あんなことになったわけですし)。演奏上のアドバイスを書いている方もいるし、作曲の経緯を書いている方もいます。
そしてこの作品には大変興味深いことが書かれております。以下抜粋で掲載します。
『僕らは常にどんな音楽であろうと、たったひとつの法則に支配されて作曲しています。それは「導音は主音に行きたがっている」「解決したがっている」というたったひとつの法則です。』
『その音がどちらに行きたがっているか、ここが鍵でもあり主題でもあるのです。その事がトニックとドミナントを生み、和音を繋ぎ、調を形成し、リズムを喚起し、メロディをも導くのです。』
さて、いかがでしょうか。理解できますか?
音楽理論、面倒ですか?
私が中学生の時だったら、作曲者のコメントはまったく理解できない自信があります。
中学校の音楽の時間に調について教わった記憶がうっすらありますが、吹奏楽部でそんな話題は一切出てきませんでした。指導者や先生が音楽理論を教えようとする気がまったくなかったのか、教えられる力がなかったのか…。
そもそも、ロングトーンをやってもいつも同じものばかりだったし、音階練習もほとんどしませんでしたから、曲に調号が書かれていると「ファとドとソが出てきたらシャープ付ける!ファとド、ファとド…』と呪文のように覚え、何とか切り抜けていたような状態でした。
そんなでも何とか曲を演奏していましたが、やはり楽譜をきちんと読めるスキルを持った人がとても少なかったために、曲を完成させるまでに時間がかかったし、感覚的に覚えてしまうことで間違ったリズムや音がクセになってなかなか修正できないなど、非効率的な状況だったと今になって思います。ですから、やはり理論を学ぶことは少なからず必要なわけで、気合と根性ではすぐに限界がきます。
みなさんの部活や団体はいかがですか?感覚やノリで解決しようとしている方、理論が苦手な方は、とても良い機会なので、この作品に取り組みつつ、音楽理論の最も重要な部分を学び、演奏に活かせるようにしてはいかがでしょうか。
ということで、今回は音楽理論のお話です。ブラウザをそっと閉じてはいけません。
なお、これからのお話するのは、すべて実音(ピアノ譜など、楽譜の音符の位置と実際に耳に届く音が同じ)で、調号がつかない「ハ長調」で解説していきます。
導音とは
導音(どうおん)とは、ドレミファソラシの「シ」、音階の7番目の音です。
「導く音」と書いて導音ですが、どこへ導いてくれるのか。それは「主音(しゅおん)」です。
主音とは
主音とは、ドレミファソラシの「ド」、音階の1番目の音で「トニック」とも呼ばれます。
名前の通り主役なのですが、具体的には「その調での主役」です。
すべての音は主音になれます。ということは、どの音も導音になる可能性があるわけですね。
なぜすべての音が主音になれるのか
ピアノの鍵盤を見ると、1オクターブの中に12の音(鍵盤)があります。
ピアノは隣り合う鍵盤を弾くとすべて「半音」という音程になっていて、規則的な間隔(音程)で順番に音を並べると「音階」になります。したがって、どこから弾いても同じ間隔(音程)で音を並べればそれらはすべて音階として成立するので、それぞれの最初に弾いた音は「主音」と呼ばれる立場になるわけです。
主音が主音でいられるのは
どの音も主音でいられるということは、「今はこの音が主音です」と裏付ける要素が必要です。それが先ほど出てきた「導音」、そして「属音(ぞくおん)」です。
属音とは
属音とは、ドレミファソラシの「ソ」、音階の5番目の音です。
音階を構成するための柱となる重要な存在で、言うならばその音階を構成する影の支配者。「ドミナント」とも呼ばれます。
属音と導音が結託すると
導音はいつも主音へ行きたくて仕方がなく、属音は主音が主音でいられるための影の支配者。このふたつの音が一緒に鳴ると「次に鳴る音はきっと主音」と、理論を知らなくてもそう感じるのです。理由は後述します。
和音になるとパワーアップする
音楽は同時にいくつかの音が鳴ることで、より明確で説得力を持ちます。それを「和音」と呼びます。
和音の基本は「音符をお団子状に積み重ねる」ことです。
トニックコード(主和音)
例えば、「ド」の音の上にお団子状(ひとつおき)に積み重ねていくと、このようになります。
この時の一番下「ド」を「根音(こんおん)」と呼び、根音は和音の中核になります。この和音の場合、根音が主音の和音なので「トニックコード=主和音」と呼びます。主音が主音であることをより明確に示す力を持っています。ちなみにコード(chord)は日本語で「和音」のことです。
ドミナントコード(属和音)
主和音「ドミソ」と同じように今度は属音である「ソ」を根音として和音を作ると「ソシレ」になります。この和音を「属和音(ドミナントコード)」と呼びます。
先ほども話題に出ましたが、この属和音には導音である「シ」も含まれているために、主和音に行こうとする力がとても強く、音楽の理論を持っていなくても、この和音が聴こえると「次は主和音に行くのだろう(行ってほしい)」と感じます。
例えば、全然知らないポップスとか演歌が流れてきても、きっとみなさんは曲が「終わった」瞬間がわかりますよね。あれは、主和音にたどり着いたからそう感じるわけです。その主和音が主和音でいられるのは「属和音」という柱、影の支配者が存在しているからなんですね。主和音で「終わった」と感じるのは大概そのひとつ前にドミナントが鳴っているからなのです。
また、属和音の上にさらにお団子をひとつ重ねると、「ソシレファ」という4つの音になります。これは「属七の和音(ドミナントセブンス)」と呼び、この「ファ」の音が「次にミの音に行きたい!」という力を持っているために、さらに強力な「主和音への依存」になります。
ちなみに、幼稚園でおじぎをする時のピアノのアレは、「トニック→ドミナント(7)→トニック」の順番で演奏しています。
やっぱり家が一番
旅行に行って帰ってきた瞬間の決まり文句「やっぱり家が一番落ち着くよね~」は、音楽でも同じです。音楽における自宅は「主(和)音」です。ということは「属(和)音」は外出先。家に帰りたい気持ちが強いわけです。帰りたい気持ちが強い、ということはストレスが強い状態です。そして帰宅すると「落ち着く~」と解放され、リラックスするわけです。
ですから、属和音は緊張感(ストレス)のある演奏(聴く人がそう感じる演奏)をすべきで、主和音に帰ってきたときにはそれが解放される演奏(聴く人がそう感じる演奏)になるよう心がける必要があるのです。
作曲者のコメントで「解決」という言葉が出てきますが、主音に戻ったことをそう呼びます。
さて、ここまで一気に解説しましたが、ご理解いただけたでしょうか。ぜひ何度も読み返し、ピアノで弾いてみるなど音で感じながら学んでください。
調について
先ほど解説したように音楽はどの音でも主役(主音)になれます。主人公が変わればその世界観は変わるように、音楽も主音が変われば世界観は変わります。「ハ長調」とか「ホ長調」と呼ばれる最初の「ハ」「ホ」が主役の名前(主音)であり、音階のスタート音です。
楽譜上では、その曲(場面)が何調かを視覚的に伝えるために「調号」が書かれているわけです。
調については私の「ラッパの吹き方:Re」というブログに詳しく書きましたので、ぜひそちらをご覧ください。合わせて、有料記事ではありますが、"note"というサービスにてより実践的で詳しい解説も書いております。よろしければぜひ。
曲を分析してみよう
さて、今回は超基礎的な音楽理論を解説しましたが、作曲者がこの作品にトニックとドミナントを理解しましょう、というメッセージを込めたわけですから、それを無視して楽器で音を並べてしまうのは作曲家に失礼なわけです。
ぜひこの機会にフルスコアを読む習慣を身につけ、理論を勉強してほしいと思います。
もちろん、曲の中はもっと複雑に書かれている部分がほとんどですから、身近な先生に質問しながら考えてみてください。
しかし、フルスコアを読むためにはもうひとつハードルを越えなければなりません。それが「移調楽器」の存在です。例えばトランペットは「in Bb」と書かれていますが、楽譜の音をそのままピアノで弾いても違う音が出てしまいます。同じように、クラリネット、サクソフォン、ホルンに関しても楽譜と実際の音が異なる「移調譜」になっていますので、その仕組みを理解しなければ実音を見つけることができません。それと、ピッコロは1オクターブ低く、コントラバスは1オクターブ高く書かれています。
さあ大変。でも部活のみんなで少しずつ手分けして学習し、教え合い、研究することで、これまで以上に深く音楽を理解をすることができるはずです。ぜひコンクールまでの数ヶ月、頑張ってほしいと思います。
ということで、課題曲Ⅲに関してはここまでとします。この先の作品解説も今回同様、広範囲における解説文になっておりますので、「自分は課題曲Ⅲを演奏するのだからそれだけ読めば良い」のではなく、ぜひすべての作品の解説をご覧いただければ幸いです。きっと様々なヒントを得られるはずです。
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また、部活などに出張レッスンも可能です。
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隔週火曜日更新のブログ「ラッパの吹き方:Re」と、交互に掲載しております「技術本(テクニックぼん)」もぜひご覧ください。
では、次回は2020年4月10日(金)に課題曲Ⅳ「吹奏楽のための「エール・マーチ」/宮下秀樹」の解説を掲載します。
次回もぜひご覧ください!
荻原明(おぎわらあきら)