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課題曲 I  トイズ・パレード/平山雄一

みなさんこんにちは!

トランペットを吹いたり、教えたりしている荻原明(おぎわらあきら)と申します。このサイトの管理者です。

 

さて今年も「荻原明オフィシャルサイト」にて課題曲トランペットパート解説を開催いたします!

 

解説を始める前にひとつ大切なことをお伝えしますと、この記事は課題曲の解説というよりも、課題曲のトランペットパートに出てくるいくつかの部分をピックアップして、その考え方や解決方法をお伝えする内容がほとんどである、ということです。よって、作品を作り上げるための全体像…指揮者が作り上げていく方向性や作品そのものの特徴などについてはあまり言及しません。まあ、そういったことは雑誌で指揮者や作曲家の方が詳しくお話されていたり、(信憑性についてはわかりませんし責任は持てませんが)インターネットでも様々な場所で目に入ると思うのでそちらをご覧ください。

 

では課題曲Ⅰ「トイズ・パレード」の解説です。

 

 

作品について

作曲者本人のスコア記載のコメントでは「マーチ」という言葉が多く見られますが、途中で大幅にテンポが落ちるなど、行進曲の形式ではありませんので、あくまで「マーチ風の作品」と捉えましょう。したがって、歩くための音楽ではなく、「何かが歩いている(ような)様子を音楽にした」と考えるほうが自然だと思います。

 

さて、何が歩いているのでしょうか。

 

これもコメントに少し書かれていますし、そもそもタイトルがそうであるように「トイ=おもちゃ」がヒントになるのでは、と考えられます。さて「おもちゃ」とは?おもちゃってなんですかね?いつの時代の?どこの国の?男の子女の子向けとかもあるし…。これは作曲者がどんなイメージを持っているのかイメージする必要がありそうですね。

 

そしてもうひとつ大切なのが、作曲者の意図やタイトルに対して固執するあまり、イメージを限定してしまうことにならないよう注意することです。

 

イメージは人それぞれ違って当然。演奏する前に、まずは奏者個人個人でイメージを具体的に持つことから始めます。ただし、脚本家ではありませんから、具体的ですべてにおいて筋が通っている完璧なストーリー構成などは必要ありません。大切なのは、その作品の素晴らしさを聴く人へ届けることですから、例えば楽しい曲ならば聴いている人も楽しい気持ちになってもらって、みんなで「楽しいね!」ってニコニコ言えるそんな空間作りを率先して行うのが演奏者なのです。だから発信するための強い力を様々な角度から持っている必要があるわけです。

 

演奏前にすべきこと、理解できましたか?

 

 

 

アーティキュレーションについて考えよう

アーティキュレーションとは何でしょうか。スラーやアクセント、スタッカートなどの音符に付け加えることで表現をより具体化する記号のことです。

音符というのはそれだけだと「長さ」しか示すことができません。それが五線の上に乗ることで音の高さ(ピッチ)を表現できます。しかしそれだけ。そこで、それぞれの音符がどんなキャラクターなのかを具体的に示すためにアーティキュレーション記号を書き込むわけです。

 

では例えばこの作品の冒頭の2小節間を見てみましょう。

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アクセント、アクセント+スタッカート、テヌートといろいろありますね。これらをどのように演奏すれば良いのでしょうか。

そのひとつの答えにたどり着くためにはまず、作曲者が思い描いている完成図を奏者それぞれがイメージすることです。先ほどの話と同じですね。それには、参考音源などを聴いてみることもひとつの方法です。参考音源は名前の通り参考でしかないので、作品の概要を理解するとか、一例として完成図を把握するために聴いてください。決して「このように演奏すると全国大会で金賞がもらえる」ために聴くのではありません(もちろん参考音源は素晴らしい演奏のひとつではありますが)。

 

例えばアクセント。アクセントが付いている音符をどのように演奏するか質問すると、結構な頻度で「タンギングを強くする」と解答される方が多いです。広い視野で考えればそれも方法のひとつなのかもしれませんが、まず考えたいのはアクセントそのものの意味です。さて、アクセントの意味は何ですか?この場合最も適していると思われるのが、

 

「強調(する)」

 

です。ではさらに考えます。強調とはどういったものでしょうか。これは音楽に限らず、もっと広い捉え方で考えてみましょう。

 

名前の通り「強さ」を表現することは強調のひとつだと思います。他のものにくらべてサイズが大きいとか、色が濃いとか、硬い(柔らかい)とか、そして音が大きいとか。

 

しかしこれだけではありません。例えば、白い布に小さなワンポイントの刺繍がしてあったらアクセントです。きれいに片付けられたテーブルの上に一輪の花が生けてあれば、それはアクセントでしょう。

 

このことからわかることは、アクセントとは「目がそこに向く」と考えられます。音楽で言うならば「耳がそこへ向く」転じて「印象深い部分」と言えるかと思います。

 

ひとつの音だけにアクセントが付いていれば、その音の存在感をどうするか、と考えられますし、いくつものアクセントが連発している場合はその範囲の存在について考えるべきでしょう。そして、複数のパートに対してアクセントが書かれている場合は「作品の中のその箇所の存在感」として考えることも必要だと思います。

なんにせよアーティキュレーション記号というのはこのように考えていくことが大切で、絶対にやってはいけないのは「書いてあるからそうやって演奏する」といった安直な発想から生まれる受け身の演奏です。

 

記号ひとつとっても作曲者の「こう演奏してほしい」のイメージ、奏者の「こう演奏しよう(なぜならそれが一番素晴らしいと思うから)」のイメージを感じた上で、最終的に指揮者が方向性を決定する、という流れになると音楽はその人にしか表現できない作品になっていくのです。

 

アーティキュレーションにつきましては、私が隔週で更新している「トランペット技術本(技術本と書いてテクニック本と読みます)」のブログにとても詳しく解説をしています。有料ではありますが、それだけの価値がある内容量ですので、ぜひご覧いただければと思います。

 

アクセントについてのの記事はこちら

 

スタッカートについての記事はこちら

 

 

この作品の主題(練習番号Bなど)

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この作品は非常にわかりやすいひとつの主題(メロディ)によって作られていて、練習番号Aからクラリネットがそれを担当しています。トランペットは練習番号Bで担当しています。

 

さてこのメロディ1拍目の「付点8分音符+16分音符」のリズム(以下「付点のリズム」と言います)について考えてみましょう。このリズムはたびたび「跳躍感(ジャンプ)」を連想させる表現として用いられ、この作品も多くの方がそう感じるのではないかと考えられます。そして、そういった理由もあって多くの場合タンギングで演奏することが多いリズムですが、このメロディの場合はスラーがついています。

 

スラーは「流れ」や「持続」を表現する時に用いられることが多いため、このふたつが合体するなど一見矛盾しているように感じ、表現方法に迷ってしまう方もいると思います。

 

こうした場面に限らず、表現方法に迷った場合、まずは必ずイメージを固めるところから始めます。この作品の付点のリズムも他の多く場合と同じようにやはり跳躍感を持っていると考えて良さそうですね。しかし、スラーが付いていることによって可愛らしく柔らかな軽い跳躍感が相応しいように私は感じます。

 

 

楽譜の書き方というのはある程度決まりがあります。作曲者は頭や心の中に思い描いた音楽を多くの人へ誤解なく伝えるために「楽譜の書き方の決まり」という制約と葛藤しながら書き出しています。したがって楽譜に書かれていること、楽譜そのものというのは妥協によって生まれた作曲者のイメージの一部のみが書かれたメモであり、「付点のリズムにスラーがついているときにはこのように演奏しなければならない」といった断定的で受け身的な考えではなく、作曲者の立場になって、「もしスラーを楽譜に書かず、すべての奏者が付点のリズムをタンギングで演奏してしまったら、(作曲者自身の)思い描く作品の完成図とかけ離れてしまう」と考えてのスラーであるとするならば、見えてくるもがありませんか?

 

このような発想からイメージを具体的に固めることができたら、実際の体の使い方についても考えてみましょう。そもそもスラーの表現はペンキをベッタリ塗るような空気圧を押し付けた音を張りっぱなしの演奏にならないようにしたいものです。したがって、この作品の場合も付点8分音符は、ほんの少しだけ体内の空気圧を高め(お腹の力をほんの少し加え)、音の密度に変化を持たせた立体的な表現になるよう、スラーによる軽い跳躍感のあるリズムが表現できるよう工夫してみましょう。

 

そもそもトランペットを演奏する際の、いわゆる「腹筋」というのは喋っている時に使っているレベルで十分なので、筋力トレーニングのような捉え方をするのはよくありませんから、その使う分量に関しては注意が必要ですが、この方法は今回に限らず様々な場面で有効な表現テクニックですから、練習し、使えるようになったら活用してみてください。

 

 

 

テンポ変化

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練習番号Iの直前にテンポを遅くする指示がありますね。今回のアーティキュレーションのお話同様、テンポ変化についても考え方の根底が同じであることに気付けると、説得力のある高い表現ができます。

 

書いてあるから、ではなくて、テンポが遅くなることで演奏がどのようになるのかをイメージします。そのイメージが自身の中で納得いくものになったら、それを聴く人に伝わるように演奏をする。この流れが大切です。

自身の中で納得いくイメージができていても、それが相手に伝わるかどうかは、表現力の高さ、説得力の強さが必要です。多少大げさに表現しないと伝わらないことも多いと思いますので、その表現出力の調整を工夫してみましょう。

 

テンポというものを「指揮者が出してきたものに合わせる」と考えてしまう奏者が多いように感じています。指揮者はそもそも奏者全員の主張をひとつの方向性に決定づける演出家、プロデューサーです。吹奏楽部ではどうしても独裁者的立場になっていることも多い指揮者ですが、本来そうではありません。

したがって、まずはそれぞれの奏者がベストだと思うテンポを合奏で示す(主張する)ことからスタートすべきです。ですから一番最初の合奏ではテンポはずれて当然で、それで良いのです。まずは奏者も指揮者も主張するところから始める。そして指揮者のイメージを汲み取って、自分のイメージと寄り添わせていく。こうすることでそのメンバーにしかできない音楽が作られていくわけです。怖がらず、どんどん出していきましょう。

 

 

ということで、課題曲Ⅰ「小象の行進」…じゃなかった「トイズ・パレード」に関してはここまでとします。この先の作品解説も今回同様、広範囲における解説文になっておりますので、「自分は課題曲Ⅰを演奏するのだからそれだけ読めば良い」のではなく、ぜひすべての作品の解説をご覧いただければ幸いです。きっと様々なヒントを得られるはずです。

 

 

 

 

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では、次回は2020年3月13日(金)に課題曲Ⅱ「龍潭譚/佐藤信人」の解説を掲載します。

 

次回もぜひご覧ください!

 

 

 

 

 

荻原明(おぎわらあきら)

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